小児科 後期研修プログラム

小児科・小児循環器科・新生児科 後期研修プログラム

小児科の特徴

  1. 九州病院小児科は、一般小児科(小児感染症・呼吸器・消化器肝臓・腎臓・何分泌・代謝・血液腫瘍・膠原病・小児神経・精神疾患・正常新生児乳児健診・ワクチン外来など)に加え、専門性の高い小児循環器科(先天性心臓病・不整脈・心筋疾患・川崎病など)と新生児科(未熟児・先天奇形・先天代謝異常・あらゆる新生児外科疾患など)によって構成される。
  2. さらに救急センター小児科として、上記3つのサブグループが共同しプライマリーケアから高次救急までのほとんどあらゆる疾患について、積極的にカバーする診療体制をとっている。

後期研修のおもな内容

(1)後期研修は、小児科専門医試験に必要な小児科各分野の症例の、そのほとんどすべてを実際に担当医として経験し、診断から治療・退院計画までを習得することを第一の目標とする。なお、小児科専門医取得後に周産期・新生児専門医取得を目指すものはその研修に入る。

(2)3年次研修では、小児プライマリーケアーに必要な知識と診察方法、診療に必須の手技を習得し確実なものとする。

(3)このために3年次では、(1)一般小児科、(2)新生児科、(3)小児循環器科・周手術期管理(麻酔科)をそれぞれ3-4ヵ月毎にローテートすることを研修の基本とする。

(4)4年次から6年次の後期研修では、1年間を通じ、(1)一般小児科、(2)新生児科、(3)小児循環器科のそれぞれ の分野から選択したサブグループで研鑽を積み、小児科分野での自己の専門性を伸ばしていくことを基本とする。なお、どの分野を選択するかは本人希望が優先 されるが採用枠や小児科全体のバランスも考慮される。

(5)小児科全体として、部長・スタッフ(医長=小児科専門医)医員、フェロー(6年次以降)レジデント(3年次~6年次)、および臨床研修医で構成され、臨床 年限に応じてそれぞれが診療責任・指導責任の役割を負っている。研修医・レジデント・フェローは担当医として、またスタッフ医師は彼らを指導し主治医とし て診療に責任を負う。

(6)3年次後期研修の1年間で習得を目指す主な項目は

1)小児の聴診・視診・触診・発達評価など基本的な診断技術

聴診

  • 心音の評価:
    機能性雑音と病的雑音の聴き分け。拡張期雑音とⅢ音の聴取。ギャロップリズム 代表的疾患であるVSD,ASDなどの診断と重症度評価など
  • 呼吸音の評価:strider, wheeze, crackle など聴き分け、左右差の評価。代表的疾患であるクループ、気管支喘息の重症度評価など

視診

  • 各種“発疹症”の診断:代表的ウイルス感染に伴うものとアトピーや中毒疹・薬疹などallergic reactionとしての発疹症の見分け
  • 母斑症の診断とそれに対する適切な助言
  •  “Odd looking face”への気づきとその診断へのアプローチ方法
  • 心不全・呼吸不全またチアノーゼなど児の疾患の重症度の見分け
  • 小児の鼓膜の評価など

触診

  • リンパ節(頚部・ソケイ部など)の触診。ヘルニアと水腫の触診による評価。
  • 肝腫大・脾腫大の評価。腸重積・幽門狭窄症など腹部腫瘤の触知。
  • PDAのbounding pulse血圧の上下肢差。
  • 筋性斜頸の腫瘤。頭血腫・産瘤の評価など

発達評価

  • 新生児反射:Moro reflex と Startle reflex Graspingの評価
  • 乳児期反射:頚性立ち直り反射など姿勢反射の評価と意義
  • 代表的Soft neurological sign の評価
  • 下肢の痙性、四肢のアテトーゼ、floppinessの診断など
2)新生児から小児期の血管確保・採血・腰椎検査・骨髄検査・胸腔穿刺

2年間の臨床研修期間中に、乳児期から小児期までの一般的な血管確保がほぼできる段階に到達しておく。3年次以降はさらにスキルをみがき、極小未熟児、先天性心疾患児、むくみの強い乳幼児など、一般に血管確保に難渋する小児に対する血管確保(輸液・採血)がより短時間で行えるようにする。

腰椎検査は、臨床研修中に数回は経験し、後期研修では、その適応を自らが判断し患児に極力苦痛をあたえずに安全にできるように自信を深めることとする。骨髄検査・胸腔穿刺は適応が限られることから、4年次以降の研修に回ることもありうる。

3)新生児から小児期の安全な鎮静検査の実施

小児における安全な鎮静は、あらゆる検査・処置の基本となるものである。臨床研修中に基礎疾患のない児に対する鎮静を経験し、後期研修では、気道確保に問題がある児などの際の安全な鎮静方法を習得する。

4)正常新生児健診・乳児健診。予防接種外来での診療

産科病棟で出生した新生児の健診と、それに引き続く新生児健診を、新生児科ローテート中の3~4ヶ月間に研修医とともに担当し、正常新生児・乳児の診かたを習得する。一般小児研修中に乳児健診を担当し、正常乳児の発育・発達とその評価や母親の育児不安への対応を身につける。予防接種外来では、乳幼児期に接種すべきワクチンについての実務を習得する。

5)小児救急外来・小児一般外来での診療

救急センター小児科は年間およそ1万―1万5千人近く (概算で平日:20-30名x235日+週末休日:60-80名x120日=12,000―16,000名)の小児が受診し増加傾向にあり。小児救急の全国的な問題として、単に診療時間外の受診と救急性を帯びた受診とが混在していることである。その肉体的・精神的な負担は少なくないが、小児のプライマリーケアーの実践経験を積む場としての意義は十分にある。スタッフの手厚い応援と指導のもとで、救急センター小児科の中心的なメンバーとして診療をおこなう。一般小児科外来は原則的にスタッフ枠で対処するが予約外患者が増加した際の診療応援と救急車搬送症例への実際的な対応などを担当する。

6)新生児蘇生・分娩立会い・新生児搬送の経験

新生児科研修中に、より多くの分娩に立会い、新生児の蘇生を習得し、緊急時に他院での分娩に立ち会ったり、蘇生を行うことができることを目指す。

7)乳児から小児期の蘇生:気道確保・血管確保・徐細動

他の市中病院・大学病院に比し、緊急蘇生を要する患児は圧倒的に多い。これは当院小児科で治療管理中の慢性疾患児(心臓疾患・脳性まひ・先天異常・新生児慢性肺疾患など)の重症度を反映している。また救急隊搬送症例は年間600-700例に及び、八幡西区・遠賀中間・直方からの一次搬送と広域からの二次搬送をカバーしている。緊急時の手早い全身状態の把握と、気道確保、血管確保の修練を積む。また小児の除細動を実際に見学・経験する。

8)小児の周手術期管理・小児ACLSの習得

3(-4)年次研修期間中に上記の研修のため、麻酔科を2~4ヶ月ローテートする。当院は新生児から幼児期までの心臓手術が極めて多く、小児科で経験するこれらの疾患が実際にどのように術前術後管理され手術されるかを身を持って学ぶ場でもある

9)小児期の代表的な急性期疾患・慢性疾患を入院から外来フォローまでを実際に 担当し 、診療経験を積む

気管支炎・肺炎や急性腸炎、尿路感染・熱性けいれんといった急性期疾患や腎炎・ネフローゼ、気管支喘息などの慢性疾患の入院担当医となった場合で外来フォローが必要な場合は、引き続き外来フォローを担当し、診療の一部始終を経験する。

10)小児期の外傷・創傷処置について初期対応ができる

小児の外傷や熱傷は救急センターで受け付けることが多い。骨折のXP診断が的確にできること、数針の縫合を必要とする外傷については、小児科医自ら縫合できるよう研鑽を積む。肘内障・ヘルニア嵌頓・腸重積症の整復。

11)新生児~小児期の超音波検査の習得

新生児:頭部・心臓を中心に正常解剖と先天的な構造異常、脳室拡大・血腫と正常脈絡巣。脳室周囲白室軟化(PVL)など:新生児科
心機能の評価とPDA・VSD・ASD・TOFといった代表的先天性心臓病の診断や川崎病の冠動脈の評価:小児循環器科腸重積・虫垂炎・腸間膜リンパ節炎・腸間膜肥厚の診断:一般小児・検査科腎盂拡大・水腎症、胆嚢拡張、などといった腹部実質臓器の評価:一般小児・検査科

12)小児期の脳波検査の習得

新生児・乳児期から思春期にいたるまでの脳波の判読とその評価・診断:一般小児科ABRと新生児聴覚スクリーニングの評価とその後の家族説明やフォロー:新生児科いずれも小児期特有の問題として鎮静剤による脳波への影響を知る。

13)小児の造影検査の習得

IP(排泄性腎盂造影)VCG(逆行性膀胱造影)の実施と評価
利尿レノグラム
脳槽造影
上部消化管造影(GER=胃食道逆流の評価)
下部消化管造影ヒルシュスプルング氏病と慢性便秘症、鎖肛の病型評価
( 一般小児科)

14)小児心臓カテーテル検査の実際を経験する

心臓カテーテル検査のため入院した児の担当医として、カテ検査にいたる経過を理解し、その理学所見を習得する。心臓カテーテル検査の助手として参加し、サンプリングデータの解釈ならびに造影画像から診断にいたる一連の流れを知り、シネカンファ・ハートカンファを通じ心臓手術の適応と留意事項を経験する
(小児循環器科)

15)極小未熟児などの出生から退院までを担当医とし経験する

出生に立会い、蘇生からNICU入院時の処置(PIカテーテル、サーファクタント注入)家族説明を行い、退院までの一連の流れを担当医として診療する。
(新生児科)

16)小児科関連領域に関する知識と経験
  • 小児外科:各種先天異常疾患の評価、虫垂炎の手術適応・ソケイヘルニア嵌頓整復など
  • 小児整形:股関節脱臼、ペルテス、骨折関節炎などの診断ボトックス治療の適応など
  • リハビリ科:運動発達の遅れ、痙性マヒやフロッピーの早期診断と運動訓練
  • 脳外科:水痘症・二分脊椎症の慢性期管理、VPシャント管理(バルブの評価など)
  • クモ膜のう胞など比較的多い疾患の手術適応など
  • 泌尿器科:包茎・陰嚢水腫・VURなどの診断と手術適応の判断
  • 耳鼻科:鼓膜所見の評価。アデノイド・扁桃肥大の診断と手術適応
  • 眼科:未熟児網膜症への光凝固治療介助。乳幼児期の斜視の診断
  • 精神・心理:自閉性障害・アスペルガー・ADHDなどの診断と対応
  • 不登校・不安障害・過換気・パニック障害などへの対応
  • 児童虐待・ニグレクトの早期発見と対応
  • 一般小児科・臨床心理室

これらの症状・病態を実際に経験し、関連する臨床科やCo-Medicalとともに解決にあたる知識と経験を積む。

17)新生児~小児の高カロリー輸液の実際を習得
  • 新生児科・小児科特有のPIカテーテル挿入とその管理。
  • 新生児期の高カロリー輸液新生児科
  • 乳児期~小児期の高カロリー輸液一般小児科
  • 中心静脈カテーテル挿入麻酔科ローテート
18)奇形症候群の診断へのアプローチと家族への説明

Odd looking face 変質兆候の見方、骨XP所見の読影から、各種アトラスを用いた奇形症候群の診断にいたる経過をスタッフとともに経験する。またそれに基づいた家族説明や在宅への移行、家族の受容への手助けをおこなう。
(新生児科)

19)予後不良児に対する看取りの医療を経験する

新生児(先天奇形・重症仮死etc)などで予後不良の児に対する小児科医として、成人とは異なるTerminal Careを経験する。
(新生児科)

20)診療録(カルテ)や退院サマリー各種の診療関連書類の正しい記載方法を学ぶ

身体所見の診方とそれを適切な用語で、SOAPに準じた方法でカルテに記載することまた必要な要点を洩れなく記載した退院サマリーの記載。
個人情報保護条例に則ったカルテ・サマリーなどの適切な個人情報の保護。小児慢性疾患、養育医療、育成医療、特別児童扶養手当、死亡診断書などの書類の正しい記載方法を経験する。

21)小児の在宅医療(在宅酸素・在宅経管栄養・在宅人工呼吸など)への移行を経験する

種々の慢性疾患を抱える児へのケアーの一環として、在宅医療を推進していくことは小児医療にとっても必須となった。訪問看護ステーション・養護学校などとの連携をと りつつ成人とは異なる在宅医療の実際を経験する。

(7)各種学会への参加や、学会発表の場を設ける

  • 3年次レジデントは、主に日本小児科学会福岡地方会で一人当たり年1~2題の演題発表。4年次以降は、日本小児科学会もしくは専門学会での年1回の発表を原則とするそれぞれ発表した内容は、小児科関連の雑誌への投稿を行う。
  • 日本小児科学会会員への登録は、3年次研修に入り次第おこなうが、あらかじめ小児科専門医を目指す意思が明確なものは臨床研修2年次に加入する。
  • 3年・4年次レジデントは福岡地方会への出席・聴講を必須とする。よって、当日の日直割り当てをしない。
  • レジデント・フェローは全国レベルでの各種講習会・研修会への参加を優先的に割り当てる。
    小児循環器:心研セミナー
    新生児科:未熟児新生児セミナー
    一般小児:内分泌セミナー・神経セミナー・日本小児医会セミナーなど
  • レジデント~スタッフはそれぞれが分担し、小児科に関する各種専門学会へ積極的に参加し、その内容をモーニングカンファレンスで報告し、最新の小児科医療の情報を伝え、全体のレベルアップに努める。

(8)当院での後期研修終了後の進路

当院での後期レジデント研修終了後は、自らがさらなる研修先を選択したり、当方から紹介できる施設・大学(医局)へ進むことを予定する。数年間、他病院や大学で専門研鑽を積んだ後に、互いの希望と時期がマッチングした時、将来的に当院小児科スタッフとして招聘し、次世代の中心メンバーとして働くことのできる有為な人材を得ることを最終目標する。

小児科レジデント達成度確認表

小児科レジデント達成度確認表