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心臓大血管手術の症例数と手術死亡率の年次推移

当院心臓血管外科の特色として、小児から成人まで全ての疾患の心臓血管手術を行っており、2023年は先天性心疾患手術88例、後天性心臓大血管手術140例(腹部大動脈瘤を含む)、計228例の心臓大血管手術の手術を行いました。手術死亡率(術後30日以内)は2例(0.88%)と重症患者が増加しているなか,良好な成績でした。手術死亡症例はいずれも成人の症例で,先天性疾患では手術死亡はありませんでした。今後も引き続き,患者さん一人ひとりに対して最善の治療ができるように日々努力してまいりたいと思います。

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図1

2023年心臓大血管手術疾患群別症例数と手術成績

心臓大血管手術の症例数の内訳は図のようになっています。(表1)

少子化と出生前診断の影響は大きく、ここ数年手術症例が減少傾向で、今年も88例と小児心臓手術症例数は昨年より20例ほど減少しました。これは全国的な傾向であり,少子化をはじめ心房中隔欠損症や動脈管開存症に対するカテーテル治療や出生前診断の普及、またコロナ禍による里帰り分娩の減少等が大きく響いているものと考えられます。ただ今後も複雑先天性心疾患に対する手術や,成人先天性心疾患はこれからも増加することが予想され,ハートチームによる高度な治療戦略,周術期治療が求められます。

虚血性心疾患手術はカテーテル治療の進歩に伴い年々減少していますが、その難易度は増す一方です。腎不全、脳血管障害、末梢血管障害、肺機能障害など全身状態の不良な高齢症例が増え、バイパスのターゲットとなる冠動脈性状も決して良好とは言えず重症症例ばかりですが、良好なバイパス開存率を保つことができております。2023年は26例の虚血性開心術(単独冠動脈バイパス術:22例、心虚血機械的合併症4例)を施行しそのうち8例は緊急/準緊急手術でした。単独冠動脈バイパス症例で1例失いましたが、心虚血機械的合併症症例は4例いずれも救命できました。

弁膜症は64例でした。20205月より開始された経カテーテル的人工弁留置術(TAVI)も順調に症例数を伸ばしています。僧帽弁手術のうち僧帽弁形成術は人工腱索再建法をはじめとするさまざまな方法を組み合わせ良好な僧帽弁形成をできているのが当科の特色の一つです。弁膜症症例では手術死亡はありませんでした。

大動脈疾患手術は年間48例(胸部・胸腹部15例、腹部33例)で前年よりもやや減少しています。このうちステントグラフト症例は胸部・胸腹部3例、腹部23例と今後も血管内治療の重要性は増していくと思われます。大血管手術では胸部真性大動脈瘤で1例失いまいたが、胸部・腹部含め破裂症例(5例)はいずれも救命できました。

 症候群 n= 体外循環
(+)
対外循環
(-)
体外循環
(+)
(死亡)
体外循環
(-)
(死亡)
手術死亡率
先天性

88

73 15 0 0 0.00%
虚血性 26 22 4 1 0 3.85%
弁膜症 64 40 24 0 0 0.00%
胸部・胸腹部大動脈 15 12 3 1 0 6.67%
腹部大動脈 33 0 33 0 0 0.00%
その他 2 1 1 0 0 0.00%
  計 228 148 80 2 0 0.88%
表1(疾患群別症例数と手術成績)

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図3

先天性心疾患

先天性心疾患は約半数をしめます。小児科の循環器グループと綿密にタイアップしており、日々の診療をすすめております。新生児、乳児の手術が多いのが特徴です。最近では胎児エコーの進歩に伴い、出生前に産婦人科、新生児科、小児循環器、麻酔科と連携し、重症な赤ちゃんを助けるべく努力をしております。

また先天性心疾患の患者さんが、大人になった成人先天性心疾患ACHD (adult congenital heart disease)(詳しくは循環器小児科ページをご覧ください)の治療にも力を入れております。当院は歴史も古く、もともと小児から成人まで守備範囲が広いことより、今後もACHDの患者さんの手術が増加するものと思われます。

単心室に対するフォンタン手術施行後の患者さんもすでに100例を超えております。1999年からはすべて心外導管型フォンタン手術をいう、人工血管を用いるフォンタン手術を施行しております。単心室という、心室がひとつしかない状態、肺の循環が拍動流ではなくなるなど、諸々の問題があります。できるだけ大き目の人工血管がはいるように手術時期、術式を考えておりますが、人工血管は患者さんが成長しても、小さめになってしまい、人工血管自体を交換ということは現在のところでてきておりません。

また完全大血管転位症に対する新生児期の大血管スイッチ手術;ジャテネ手術も100例を超える数になってきております。

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完全大血管転位症
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ジャテネ(Jatene)手術の実際

後天性心疾患

後天性心疾患には虚血性心疾患、大動脈疾患、弁膜疾患などがあります。

虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)では、人工心肺を用いない冠動脈バイパス手術を1999年から導入しております。人工心肺に起因する脳障害が少ないこと、手術侵襲が少なく術後回復が早いこと、など患者さんにとって良い点が多い術式で、現在約7割に用いております。またバイパスに用いる下肢の静脈も内視鏡で採取する方法も導入しております。この病院では、特に緊急時の対応が重要ですが、3割以上が緊急あるいは準緊急手術であり、いつでも手術が可能なように病院をあげて協力体制をとっております。

●僧帽弁手術に関しての弁形成のテクニック

僧帽弁形成術では一例一例病変の部位や程度が異なるため症例に応じた最適の形成法を適応しなければなりません。そのうちの一つ、延長したり切断した僧帽弁腱索にたいする人工腱索再建法では徳永考案のFixed loop-in-loop (FLIL)法を用いて良好な成績を得ています(図3:Tokunaga S et al. Asian Thorac Cardiovasc Ann, 2014;22:1132–4)。術者(徳永)の2010年以降のデータを解析したところ(Type II: 僧帽弁逸脱症例の解析)、非常に複雑な病変を有する症例が多いにもかかわらず、手術死亡0、僧帽弁形成率完遂率98.7%、術後7年における僧帽弁逆流再発回避率(中等度以上)95.3%、術後7年における僧帽弁再手術回避率98.3%と海外の一流施設と同等の成績を残しています(第49回日本心臓血管外科学会会長要望演題発表2019年2月11日岡山にて)。

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●心臓弁膜症と人工弁について(リンクへ飛びます)

大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル的大動脈弁置換術 (TAVI)

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当院では最新の機材を備えたハイブリット手術室において、重症大動脈弁狭窄症に対する低侵襲治療として2020年5月から経カテーテル的大動脈弁置換術 (TAVI) を開始しました。これは通常の開胸心停止による人工弁置換術とは異なり、カテーテルという細い管の先に折りたたんだ人工弁を取り付け、血管内からこれを進め心臓を止めることなく人工弁を大動脈弁の位置に置いてくるという治療法です。これにより従来の開胸手術による大動脈弁置換術が受けられないような超高齢の方や、基礎疾患が多い方でも治療が可能となりました。

最近では、欧米諸国や本邦での良好な短期・中期成績を受けて、ますます多くの方がTAVIの適応と考えられるようになりました。具体的には、80歳以上であればTAVIが検討されます。2021年3月時点での当院最高齢は93歳です。しかし長期成績が不明であることや解剖学的条件から、従来の開胸手術の方が望ましい患者さんも数多くいます。我々ハートチームでは、患者さんひとりひとりにベストな選択肢を提供していきます。

大動脈疾患は近年明らかに増加傾向にあり、当院でもステント治療の導入に伴い、2010年には初めて大血管疾患が虚血性心疾患を上回る手術数になりました。

とくに大動脈に裂け目を生じる急性大動脈解離は放置した場合の致命率も高く、発症から手術までの時間をいかに短縮できるかが、キーポイントになりますが、当科ではこの疾患を虚血性心疾患と同様、もっとも緊急度の高い疾患として位置づけており、緊急に手術が可能なようにしております。

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●弓部大動脈置換術、術前後のCT画像の比較

〇で囲んだ動脈瘤が人工血管に置き換わりました。

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●大動脈疾患に対するステント治療

2020年は大動脈に対するステント治療は計44例で(胸部大動脈瘤が11例、腹部大動脈瘤に対して33例)でした。この治療は患者さんにとって侵襲が少ない方法であります。

●腹部大動脈瘤に対するステント治療施行例
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弁膜症手術では昔のようなリウマチ性疾患は減少し、代わりに硬化性病変や変性疾患が増加してきました。自分の弁を温存する形成術を積極的に施行しております。診療部長の徳永は、2010年以降複雑病変を数多く含む190例以上の僧房弁形成術を行い、その形成成功率は98.7%、遠隔期における中等度以上の逆流再発9例(4.7%)、逆流再発に対する再手術3例(1.6%)と大変良好な手術成績です。患者さんの心機能も温存でき、不整脈がない患者さんなら抗凝固療法も不要ですので、今後も形成術を積極的に行っていきたいと思います。また弁置換術に際しては、患者さんのライフスタイル、ご希望を考慮しながらの生体弁か機械弁の選択を行っております。

おわりに

当科の理念である『最高の医療を病めるすべての人に!』を合言葉にこれからも全力を尽くしたいと思います。

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(最終更新日:2024年5月22日)